REPORT/INTERVIEW

  • 500m美術館『三つの体、約百八十兆の細胞』レビュー

     

    「わけのわからなさ、心地の悪さ」

     奇妙な展覧会タイトル(*1)に負けず劣らず、作品もゴチャゴチャしていて不思議だ。早川の彫刻、高石の絵画、加納の写真、とそれぞれ異なった専門を持つ三人の作家が、共同制作のような形で、500m美術館の展示空間であるガラスケースを余すところなく使い切ったインスタレーション作品である。

     ガラスケースの中には、彫刻のような、絵画のような、写真のようなものが、床に置かれたり、壁に立てかけられたりして散らばっている。彫刻や絵画といった属性をもとにして作品を見てみようと試みるも、それぞれが互いの境界を侵犯し合っている状況を前にすると、作品をカテゴライズしようとすること自体が、無意味なことのように思えてくる。見ているこちらが、なんとなくわかった気になって安心したいだけなのかもしれない。

     展示作品は、実につかみどころがない。なにかに定義されることを拒むかのようでもあり、曖昧さを積極的に選んでいるようにも見える。それが、鑑賞者の心地を悪くさせる。作品の前に立っていると、なんだかモヤっとした気持ちになってくる。しかしそれはまた、この作品の魅力でもある。

     

     

     実際の展示作品は、手でこねられたような形のカラー粘土が、不規則に並べられていたり、絵の具が塗られた木の板が、切断されて構造物の一部になっていたり、作品を制作中の風景を撮影した写真の貼られた木の板が、スタジオに置かれた状態を、更に撮影して大きくプリントした写真が貼られていたり、巨大な発泡スチロールの塊を削ったり溶かしたりしながら造形していく過程を記録した動画が、別の構造物へ投影されていたり…。こんな風に言葉で描写しようとすればするほど、ますますわけがわからない。単純な言葉で説明されることから、作品がスルスルと逃げていく。いったいこの作品は、どのように見たらよいのだろうか。 

     

     

     一つの方法として、全体を大きなコラージュ(*2)作品として考えてみてはどうだろうか。コラージュとは、組み合わせられたものがそれぞれ元のコンテクストを離れ、新しい意味や価値を、鑑賞者に気づかせるような技法である。それは、作者自身にとっても思いもよらなかった状況を、しばしば生みだす。特にシュルレアリスト(*3)たちは、この技法によってこれまでに見たことのない風景をつくりだそうとした。本作においては、実材のみならず、ジャンルや技法、タイムラインや空間、液体と気体、化学反応や重力法則なども三人の作家によって一度バラバラの素材に還元され、再構成されている。これら素材の絶妙な交錯は、鑑賞者のものの見方を既知のものから解き放ち、思いがけない跳躍を楽しませる。 

     以上は、コラージュという技法から見た基本的な作品鑑賞だが、100年以上も前に生まれたこの言葉で説明し尽くせるほど、本作品は単純ではない。それ以外にも、何だか腑に落ちないような、不思議な心地の悪さを積極的に引き起こして鑑賞者を戸惑わせている。

     

     

     たとえば、壁の高い位置に打ち付けられた垂木に、白い紙袋が載せられている。支点が一点なので垂木が当たっている部分が、潰れてへこんでいるのだが、よくみるとこれは紙袋ではなく、ズシりと重い、固まった石膏の塊である。また、テンポよく複数枚並んだ木の板の表面を、それぞれ下に向かって絵の具がドロっと流れ落ちて固まっている。ただし最後の板にだけは、逆に上へ向かって流れた絵の具が、そのまま途中で固まっている。気を抜いて見ていると、急に梯子を外される。あたり前だと思っていた平衡感覚や時間感覚を、いつの間にか狂わせられて背筋がザワッとするような瞬間がある。

     

     

     こういった心地の悪さが、繰り返すがこの作品の魅力である。鑑賞者は作品を前にして、モヤっとしたなにか、ザワッとしたなにかについて能動的に向き合わざるをえなくなる。たとえば重力のような、”目には見えないけれども存在するルール”を、私たちは日常的には、よくも悪くもいちいち考えることなく従って生きている。そういったことを、再認識させられる。このような非日常的な揺さぶりとそこから得られる新鮮な気づきは、心地悪くもクセになるこの作品の魅力のひとつである。

     

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    *1 地下鉄大通駅とバスセンター駅の間にある500m美術館にて、2015年9月26日(土)〜2016年1月22日(金)の約4ヶ月間開催された、彫刻家 早川祐太、画家 高石晃、写真家 加納俊輔、3名の作家による『三つの体、約百八十兆の細胞』展。

    *2 パブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックが始めたといわれている、互いに無関係な素材を組み合わせて造形作品を構成する技法。平面に木材や針金などの立体物を貼り付けるなどした手法は、絵画と彫刻の垣根をなくしたともいわれている。

    *3 第一次世界大戦後に広がったシュルレアリスムの代表的な作家は、ルネ・マグリットやサルバトール・ダリなど。夢や無意識、非合理の世界を表現に積極的に取り入れて新しい価値観を打ち立てようとした。他にも、デカルコマニーやフロッタージュなどの技法を用いた。

     

     

    東方悠平 Yuhei Higashikata /美術家

    1982年、北海道生まれ。筑波大学大学院 芸術研究科 総合造形コース修了。主な展覧会に、「個展 死なないM浦Y一郎」Art Center Ongoing(2013)、「第13回 岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展」川崎市岡本太郎美術館(2010)、プロジェクト「てんぐバックスカフェ」灘手AIR(2013)など。

    http://higashikata.com

     

  • シークレット歌劇團0931『ロミオとジュリエットと…』~甘く香る蒼き薔薇たち~レポート

    神秘のベールに包まれたシークレット歌劇團0931。これ以上ファンが増えると年末公演のチケットがもっと取り難くなるので、できるならあまり知って欲しくないのが個人的な本音なのだ。今でこそ発売当日に全5ステージ分のチケットが完売してしまう。だからこっそり書くが、昔、札幌で開催されたカルト・ライブ・イベント「雑種天国」出演を皮切りに、単独での上演を行なうほど人気の彼女達(彼ら、もいるのだがここでは「彼女達」とする)の素性について、熱狂的ファンは多くを語らない。本レポートでもそんな無粋なことはせず、ただただ、その舞台の面白さと魅力についてお伝えしたい。

     

    シークレット劇團0931

     

    画像をご覧頂くと一目瞭然だが、関西を拠点とする某歌劇団へのオマージュなのである。美しい衣装とかつらを身につけ、時に演じ、時に歌い踊る「本編」と、休憩を挟んで繰り広げられる華麗な「レビュー」の二幕構成なのも同じだ。では何が違うのか。主宰者であり、脚本・総合演出をしている愛海夏子氏は自ら「よく見るのだ、何もかもが違うではないか!歌も芝居もダンスも三文、何をどうしたとしても酷過ぎる団体」と自団体をコケ卸している。潔いことこの上ない。要するに「観客を巻き込んだ大人の最上級のごっこ遊びのなれの果て」と公言しているのだ。さて、この団体とファンの独特な雰囲気を知らない人にはまだ伝わりづらいと思うので、もう少し丁寧に説明しようと思う。

     

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    彼女達は自分たちのことを「中小貴族団体」、ファンを「平民」(“平和を愛する誠実な民”、並びに“平素より0931が大変お世話になっている忠実な民”の略)と呼び、毎年12月の週末に公演を行なう。舞台は、劇団ツートップの女性が男装をして主役を務め、娘役もいるし、男性による男装もある(...ん?)。芝居の演目は大抵多くの人が知っている物語などをベースに、一瞬パロディか?と見せかけ最終的にはいいオトナ達が、腹筋が痛くなるほど大爆笑し、最後にほろりと涙するオリジナルの愛と笑に溢れるストーリー展開なのだ。

     

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    例えば今年13回目(=13年目)を迎えた舞台のタイトルは「ロミオとジュリエットと…」。打ち間違いではなく「ロミオとジュリエットと…」で、最後、誰も死んだりしない。ここで「なんだハッピーエンドか」と簡単に考えないで欲しい。シェークスピア原作「ロミオとジュリエット」にある「両家間に脈々と続く憎しみの連鎖に若い恋人たちが巻き込まれ、そして命を落とす」という誰もが知るストーリーをベースに、同じように憎しみと復讐の連鎖に巻き込まれ、テロや戦争の応酬のうちに若者達が命を落とすという現代(もしくはもっと身近な問題や日々)を、鑑賞者が知らず知らずのうちに重ね合わせていく。

     

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    本舞台では、ロミオとジュリエットの仲を割こうと、ジュリエットの甥を憎しみで焚き付ける(ジュリエットの)母親がキーパーソン。ラストシーンで「何代にも亘り両家を憎しみあわせてきた男たちが悪いのよ。政略結婚せざるを得なかった自分の悲しみも、代々続いてきたし、この先も続いていく。何も変えられやしないなら、みんな不幸になればいい。私だけが不幸だなんていやよ」というような言葉を泣きながら吐露する。そして「あなたには私がいますよ」と立ち上がる身近な人物の存在が彼女を救い、若者たちは憎しみの連鎖から解放される。

     

     

    現実はそんなに簡単じゃないと言う人もいるかもしれないが、誰かを負の連鎖に巻き込むのではなく「誰かの幸せを願う生き方」をする。ただそれだけ、ただその繰り返しによって何かが変わっていくのじゃないかなと希望を持ちたくなる舞台。このシークレット歌劇團0931が人々を惹き付けてやまない魅力のひとつは、こうしたまっすぐなメッセージが込められているからでもある。

     

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    でもただ「感動して欲しい」という舞台ではない、だろうと思う。その年の流行語や話題の人物・時事ネタを絶妙なタイミングで、"これでもか"と盛り込んでいるので、鑑賞者は涙が出るほど笑う。これは笑わされるというよりは「笑いに行っている」ので「積極的に笑う」。それに、この劇場の"演者との距離が近い"という利点を最大限に生かし、某歌劇団並みの厚いメイクを施した彼女達が、もの凄い勢いで近づいてきては鑑賞者にアプローチしてくるのだ。思い切り視線が合う。その視線は決して外せない。それはもう「絡まれる」と言っても過言ではないが、この劇団ならではの楽しみのひとつだ。そして本編でほろりとした後の「レビュー」では、羽のいっぱいついたアレを背負ったまま客席や通路で「今年もありがとうございます」と90度の丁寧なお辞儀をするので、当然、羽の束が顔にバサバサあたり、また笑う。

     

     

    この公演を「一年のご褒美」と言う人もいれば、「これで今年も無事に年を越せるね」と言う人もいる。息も絶え絶えに動き回る団員達が贈る3時間近い濃厚な舞台の間中、鑑賞者はそれぞれに一年の出来事を振り返り、前のめりになって思い切り笑い、時々泣いて、モヤモヤしていたものが消えて、また明日から頑張ろうと思う。彼女達の舞台はいつも「みんな、この一年よく頑張ったね」という愛に満ちたご褒美なのである。ちなみに定期的な不定期さで更新されている彼女たちのブログには「あと、かりんとうは好きですか?」と記されているのだが、気になる(全力で楽しみに行ける)人はぜひ次回、足を運んで確かめてみたらいいと思う。

     

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    シークレット歌劇團0931
    平成27年度公演『ロミオとジュリエットと…』~甘く香る蒼き薔薇たち~
    日時:2015年12月11日(金)~13日(日)
    会場:扇谷記念スタジオ・シアターZOO
    住所:札幌市中央区南11条西1丁目 ファミール中島公園 B1F

    http://www.sozo-art.com/0931_j.html
    http://ameblo.jp/0931-0931/

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    レポート:所村 文
    写真提供:シークレット歌劇團0931

     

  • 僕らは同じ夢をみる − 飛生芸術祭、TOBIU CAMP、そして森づくりとは?【前編】

    photo : Kazuki Matsumoto

     

    札幌から高速で1時間ほどの白老、そのさらに森の奥で毎年9月に1週間開催される飛生芸術祭と、その最後の2日間に開催されるTOBIU CAMP。アートと音楽が一堂に会すこの祭典は、会場となる飛生の森づくりとともに、年々進化を遂げています。どこか物語のような不思議な世界観をはらみ、自分たちの手でつくりあげていくというこの一大イベント、どうやらただのフェスではないようです。芸術祭のディレクターであり、飛生アートコミュニティーの代表で彫刻家でもある国松希根太さんと、TOBIU CAMPメインディレクターの木野哲也さんに、お話を聞いてみました。

     

    — そもそもなぜ、白老の飛生という場所だったのでしょう?

    国松 僕の父で彫刻家の國松明日香(*1)が、1986年、廃校になった飛生小学校を借りて、仲間たちとの共同アトリエとして飛生アートコミュニティーをつくったんです。僕が子どものとき家族と飛生に2年間住んでいた頃、体育館を使って年に1回ジャズのコンサートが開かれていました。そのときの、いつも全然人が来ない飛生にわっと人が集まってくる感じを覚えています。

    大学卒業後、札幌に仕事場がなかなか見つからなかったとき、当時は家具作家さんが1人で使っていた飛生アートコミュニティーに僕も入れることになったので、思い切って2002年に飛生に引っ越しました。最初は単にアトリエとして使っていたけど、体育館もあるし好きなことができるので、だんだん人が集まってくる場になりました。(木野)哲也はその中の仲間の1人です。

    そのうち、昔やっていたコンサートのように人を呼んで何かできないかなと思って、始めたのが2007年の「TOBIU MEETS OKI」(*2)です。今もTOBIU CAMPのかなめ的キャストであるトンコリ奏者OKIさんのライブと、会場に自分や仲間たちの作品を展示する一日だけのイベントで、OKIさんのコーディネートや音響を手伝ってくれたのが哲也でした。このとき思ったよりたくさんお客さんが来てくれて、すごくいい雰囲気になったので、続けたいねという話になりました。

     

     

    — その後、2009年に「飛生芸術祭」と名前を変えたきっかけは何ですか?

    国松 2009年は1日限りではなく、さらに面白いことをやりたくて、これからも継続していくイベントとしてアートや音楽などを含める「芸術祭」という名前をつけ、「飛生芸術祭」をスタートさせました。アートの展示会期が8日間になり、OKIさん以外にも音楽アーティストを呼んで内容も充実したイベントになってきた時期です。

    2011年には、会場となる飛生の森づくりを始めます。この年、哲也主催の野外フェスMAGICAL CAMP(*3)を、TOBIU CAMPという名前で環境を変え、芸術祭の一環として開催することになりました。また、この年は飛生で美術教室を始めたり、今も続く富士翔太朗くんの竹浦小学校の生徒とのワークショップ(*4)を開始したり。色々なことが一気に始まった転機の年ですね。飛生アートコミュニティーが25周年を迎えたこともあって、気合いを入れてやろう!と規模を大きくしたら、それをなかなか小さくできなくなったんです(笑)。

     

    「topusi」art work : Taiho Ishikawa  photo : Hideki Akita

     

    — 芸術祭について伺いますが、参加アーティストはどのように選んでいますか?

    国松 はじめは仲間うちのアーティストを中心にしていたのが、芸術祭になってからは、こちらからオファーして呼ぶアーティストが増えてきました。作品は芸術祭の最終日に開催するTOBIU CAMPの間も展示するので、野外の彫刻の作家だけではなく、TOBIU CAMPで作品をつくってその日限りの作品を見せる人もいます。選ぶ基準は、この人の作品は面白いなと思い、飛生の空間で見たいと思ったら声をかけるというスタンスです。

    木野 芸術祭で常設展示をするアーティストと、TOBIU CAMPでその場限りの展示をするアーティストで、作品の見せ方などをいかに分けるかっていうのもポイントなんです。

     

    — 室内に展示するということではなく、外に置いたままやがて森の一部になるような作品が多いですが、そういった条件を前提に作家へオファーをしているのですか?

    国松 そうですね。TOBIU CAMPと森づくりが始まった2011年に、今後の芸術祭のテーマとして、物語的な要素を演出によってもっと強めて、なんだか不思議な村に来た…という感じのイメージをつくろう、と決めました。会場になる飛生小学校は古い木造校舎なので、来た人に「タイムスリップしたみたい」とか「現実じゃないみたい」と言われていたから。

    アートも、有名なアーティストを呼んで新作をぼんと置くのではなくて、オファーしたアーティストに森のイメージを伝え、そこにあくまでも森のひとつの要素として作品をお願いしたいと依頼します。そのために必ず下見に来てもらったり、飛生芸術祭のストーリーを理解してもらうことを大切にしています。これはアートも音楽も一貫していますね。

     

    — 今回、飛生の森のアーティストに淺井裕介さん(*5)、今村育子さん(*6)を新たに迎えていますね。

    国松 これまでは森と一体化し、風化、増殖するような作品が多かったのですが、今年は少し異質な作品が欲しいと思っていました。その場所に馴染んで置かれるものというより、お客さんに探し出してもらって、そこでだけ体験できるような作品。2人には、森に馴染むようにというお願いはしていなくて、そのままをどんと出してもらおうと思っています。

    淺井さんは東京出身の第一線で活躍する現代美術家で、偶然、知人を通じて飛生を訪れたことがあり、それが今回の参加につながりました。2人の作品がどんなものになるか、僕らも楽しみにしています。

     

    淺井裕介さんの制作風景  photo : Kineta Kunimatsu

     

    — 芸術祭は8日間の開催。見どころはどんなところでしょうか?

    国松 初日の9/6(日)は森を回りながら森づくりの話やアーティストトークを聞ける「飛生の森びらきツアー」や、今年5年目の節目を迎える森づくりプロジェクトの報告会があるので、ここをメインで来てもらえたらいいですね。アートだけでなく、森づくりに興味のある人にも。芸術祭の日程だとひとつひとつの作品をゆっくりと見られて、もちろん継続してTOBIU CAMPでも全ての作品が見られます。芸術祭は16時までの明るい時間帯、TOBIU CAMPではライトアップされる夜の時間帯。雰囲気が変わるので、2回来る人もいますよ。

     

    — では、現在芸術祭の柱にもなっている「飛生の森づくりプロジェクト」について聞かせてください。

    国松 飛生小学校は町から借りているんですが、あらためて調べたら敷地が意外と広くて、裏の林も使えるとわかった。ここを芸術祭の会場としてつくりながら、芸術祭とTOBIU CAMPを同時に始めていった感じですね。最初はただ一本の道だけを切り開いて、そこにステージをつくったり、作品を置いていました。森づくりっていうと、植林などを思い浮かべると思いますが、飛生はあたらしいかたちの試みということで、他の森づくりの活動をしている団体などから注目してもらっています。

    木野 行政や自治体ありきでなく、アーティストや僕たちスタッフのイニシアチブで森づくりをやっていることは、地方発信のありかたとしては強いと思うし、そもそも純粋に「やろう!」っていうところからスタートして大きくなってきているから、かなり自発的なアクションだと思いますね。

    毎年、(国松)希根太が中心になって1年間のプログラムを考えて、毎週何をやるか作業工程も細かく決めてネットで配信して、それに来られる人とすすめていく。基本的に森づくりの参加は自由なんだけど、循環した作業工程にはまっちゃう人もいます。やめられなくなる、そういう力がある場所なんです。

     

    photo : Naoki Takahari

     

    国松 もうひとつは、芸術祭やTOBIU CAMPで多くの人に見てもらうお披露目の意味もあるので、みんなそこに向かって進めていくんです。その年の芸術祭が終わった後に、来年はだいたいここまでやろうと決める。5年計画で、今年はその5年目を迎える、ひとつの区切りの年ですね。家や火を囲むところ、会場のシンボルとなるトゥピウタワーなど、大きいところは大体できて、場所は整ってきました。来年以降はここで何をするか、中身をこれからつくりこんでいきたいなと。

    森づくりには、世代も職業もバラバラな人たちが自発的に関わってくれていて、のべ200人くらいは参加していますね。作業が終わって温泉行ってバーベキューして1泊して…合宿スタイルでやっていくうちに、だんだん家族のようになってくるんです。今は、アーティストよりも普通に仕事している人、そして白老というより札幌・苫小牧など外の参加者が多い。チェーンソーを持ったこともなかった人が持てるようになって、そのうち自分で買っちゃったり(笑)。

    木野 ただのうっそうとした笹だらけの場所だったから、今出来上がってきた会場を見ると、ちょっと自分たちも信じられないですよ。

    国松 森って木がどんどん育っていくから、管理しないと荒れてしまう。ある意味、森づくりに終わりはないんです。どうつきあっていくか、どう守っていくかが今後の課題ではあるけど、それでも、なにかやりたいとかつくりたいって誰かが言い出して、結局何かをこの森でやっていくんだろうなと思っています。

     

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    *1 國松明日香:彫刻家。鉄を題材にした大型のモニュメントを手がけ、札幌市内の公共施設に多くの作品が展示されている。現在、東海大学国際文化学部デザイン文化学科講師。

    *2 「TOBIU MEETS OKI」:2007年、飛生アートコミュニティーで開催。アイヌのトンコリ奏者OKIをはじめ、音楽LIVEとアートフェア、空間演出などに様々なアーティストが参加。

    *3 MAGICAL CAMP:2007〜2009年まで札幌テイネハイランドにて開催された、音楽とアートが渾然一体となった野外フェス。プロデューサーは木野哲也。

    *4 竹浦小学校の生徒とのワークショップ: 2011年から継続して行なわれている、美術家の富士翔太朗と白老町立竹浦小学校全生徒によるプラネタリウム制作や音楽制作。作品や音楽はTOBIU CAMP会場で公開される。

    *5 淺井裕介:テープ、ペン、土、埃、葉っぱ、道路用白線素材など身の回りの素材を用いて、キャンバスに限らずあらゆる場所と共に奔放に絵画を制作する美術家。国内外での展示多数。

    *6 今村育子:主に日常の中にある些細な光景をモチーフにインスタレーション作品などを制作している札幌在住の美術家。

  • 僕らは同じ夢をみる − 飛生芸術祭、TOBIU CAMP、そして森づくりとは?【後編】

    photo : Ami Igarashi

     

    — では木野さんにお聞きしますが、MAGICAL CAMPからTOBIU CAMPへと変わったいきさつとは?

    木野 MAGICAL CAMPは3回テイネハイランドで開催した後、続けるつもりで札幌近郊の別な場所を探していたけど、グッとくる場所がなかったんです。そんなとき飛生で希根太と話していて、「森をつくろう」って話になったときに、それはすごいな!ってめちゃくちゃワクワクしたのが、TOBIU CAMPの始まりかな。ここで俺は本当の「つくる」っていう意味を知るんだなって思いました。だって、自分たちやお客さんが歩く道自体から、全部つくらないといけないわけだから。

    MAGICAL CAMP とTOBIU CAMPは、対極にあるような気がしていて。MAGICALは都市にわざとカオスをつくりだすような、キラキラした刹那的な感じ。TOBIUは、完全に地べたに足がついて、自力の、自分たちのスピードで進んで、薮を切りひらかないと始まらないイベントなんです。

    僕はTOBIU CAMPではなるべくその日だけの仮設物を減らしたい。そのときだけ置いて、終わったら撤収!じゃなくて、その次の年も使えたりそのまま残ったり、いつか朽ちて行くものがいい。でもそれって特別なことじゃなくて、実はあたりまえのことだなと実感できることがすごく新鮮だったし、TOBIU CAMPはそんなペースの中で演出を考えていきたいと思いました。

    そもそも、イベントとしてアーティストだけを前面に出すというやり方もしなくなったし、むしろ僕たちスタッフは1年に5ヶ月くらい森に入って会場づくりをしているから、アーティストよりスタッフの想いのほうが強いんじゃないかな。アーティストはいちキャストでありいち演出のひとつ、TOBIU CAMPという時間を構成する人たちっていう捉え方です。

    MAGICAL CAMPはいわゆる野外フェス的な志向だったけど、TOBIU CAMPはそれとはまったく違うものですね。

     

     

    — その違いとは、どんなところにあるのでしょうか?

    木野 TOBIU CAMPのキーワードは、物語。今回は昨年に引き続き、芸術祭のテーマが「僕らは同じ夢を見る」なんですが、TOBIU CAMPも一夜の物語にたとえられるんです。一夜、森や古い校舎で過ごすということや、その感覚のなかで見たり聴いたりすることって、非日常で、すごく特別な体験になると思うから。

    象徴的なエピソードがあるんです。昨年、サックスやアコーディオンを演奏しながら人形劇をする「おたのしみ劇場ガウチョス(*7)」がキャストで参加してくれたとき、2回目の上演は夜だったから、子どもたちはみんな寝ていて見ていないはずでした。だけど翌朝、子どもたちが「昨日、人形劇見た?」「見た見た!」って言っているのを劇団の人が聞いて、”見ていないのに、まるで見たかのように話している、これこそ「僕らは同じ夢を見る」じゃないですか?”って僕に言ってくれたんです。飛生には、そういうことが起こるような力、シチュエーションがあるような気がしますね。

    芸術祭ともリンクするけれど、僕がアーティストにオファーするときに伝えているのは、「あなたはこの飛生という場所でなにができますか?普段あなたが出演するようなライブ会場や、アート作品を展示するギャラリーでやっていることをそのままここでやっても、強くはないし、作品の伝えたい意図がマッチングするわけでもない。だからなるべく事前に一度この場所にきて、インスピレーションを感じてもらって、本番に制作や発表の照準を合わせてきてほしい」っていうこと。そのアーティストが出る前後の流れもあるし、そこでどんな表現をしたいのかを考えてほしい、という宿題を出しているようなもので…まあしかし、生意気なイベントですよね(笑)。

     

    photo : Noriaki Kanai

     

    — アーティスト側は、そのオファーにどう反応されますか?

    木野 アーティストは、イベント側からそんな風に言われたことがないから「なんかすごいこと言いますね!」って、いい意味で言ってくれます(笑)。「表現者としてやっていくうえでの価値にプラスになるような気がしてすごく楽しみだ」と。

    主催者側と、プロデューサーやディレクションで関わる人たちと、スタッフ達、そしてアーティストが全て同じ方向を向いたら、すごく強いものができると思いませんか?たとえば映画だと、最後エンドロールでずーっと名前が出るでしょう。ロケバスを運転した人やお弁当つめてくれた人の名前まであると聞いたことがあって、その人たちがみんな同じ台本を持っている。芸術祭やTOBIU CAMPは、その台本を何年も何年もかけてつくるんだから、そりゃあすごいものができるよ!っていう、大げさだけどそういう感じですね。

    国松 そういう意味合いもあって、美術、音楽などジャンルにかかわらず、キャストっていう呼び方に統一してみんな並列にしているんです。美術作品は、大道具じゃないけど、ひとつの舞台の要素をつくっているっていう感じがありますね。お客さんも、その舞台を構成するキャストのひとりです。

    木野 キャストには地元色も出していきたいと思っていて。たとえば今回ゲストで呼んでいる「GIANT SWING(*8)」はタイで5年以上続いている、世界中の人や音楽好きが集まるバンコクの中でも選りすぐりの素晴らしいパーティーで、それをつくっているのが北海道人であり、そのうちの1人が室蘭出身なんです。

    そして、地元という意味では、白老にはアイヌ民族の存在がある。今やポロトコタン(アイヌ民族博物館)とのつながりができ、館長をはじめとして僕たちにいろいろ協力してくれたり、そこで働くアイヌの若者たちがTOBIU CAMPに参加してくれるようになったことは、ありがたいことだなあと思っています。

     

    photo : Hideki Akita

     

    — その中でも、マレウレウ(*9)による「ウポポ大合唱」は5年間続いていますね。これはどんな風景になるんでしょう?

    木野 ウポポとはアイヌの伝承歌で、多くは輪唱です。リムセっていうのが踊り。このときはほかのステージを全部止めて、みんなで火の周りに集まります。大きな焚き火を囲んでみんなで円になって歌うんだけど、輪唱だから終わらないし、人間の声のエネルギー、倍音も発生する。全員でつくる儀式のようなもので、TOBIU CAMPの中でも象徴的な時間ですね。そこでアイヌの若者たちが踊るんです。

    とくにアイヌ民族だからということではなく、大きな表現の時間軸の中で、同じ町に住んでいる先住民族の活動や表現が見られる時間があったらいいと思っているんです。こっちは演出を、向こうはパフォーマンスと人と時間とを、対等に出しあって良い場面をつくろうという想いがだんだん混ざり合ってきたという感じ。これってすごく大きなポイントだと思いますね。

    国松 TOBIU CAMPでは土に足をつけて、本当に大きな火を囲んで踊るから、昔はこうだったんだろうなという踊りの雰囲気が再現できていると感じます。

    木野 自分たちでやれることしかやらないとは言いつつ、もっともっと演出を作り込んでいきたい。去年から舞台の照明作家さんが関わってくれて、「暗闇をつくるために灯りをともす」っていう素晴らしいプロの仕事を見せてくれて、これこそ本当の物語だ!って思いました。大きな理想ですが、お客さんが、エントランスをくぐった瞬間に「あ、これは何かやばいな」って思ってくれるような仕掛けをつくっていきたいですね。

     

    — TOBIU CAMP初心者の人のために、当日持ってきたら良いもの、また、メッセージをお願いします。

    木野 テント、雨具、秋のキャンプだから防寒具、温泉セット、虫除けスプレー、懐中電灯、長靴、このあたりは必須。駐車場からちょっと距離があるから、荷物が多い人は、折りたたみ式のキャリーカートがおすすめ。小さいお子さんがいたり、どうしてもキャンプはできないって人は、近くに安い民宿や温泉宿もあるから、それを使ってもいいですしね。

    国松 去年は小さな子ども連れの家族の参加がとても多かったですね。キャンプサイトにはファミリースペースがあるし、全部屋外ではなく校舎や体育館もあるので、キャンプのつもりで気軽に遊びにきてほしいなと。ちなみに、高校生以下は入場無料です。それと、TOBIU CAMP当日、実は人気なのがワークショップ。見たり聞いたりだけでなく、自分で手を動かすっていうのが楽しいんです。

    木野 TOBIU CAMPは森で過ごす一夜を自分のペースで楽しめるのがポイント。アーティスト目当てというよりは、森をふらっと歩いたら誰かが演奏していた、それが誰なのか知らない…っていうのも、きっと面白いですよ。

     

    photo : minaco.

     

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    【開催概要】

    飛生芸術祭 2015「僕らは同じ夢をみる−」
    会期:2015年9月6日(日)〜13日(日)
      *12日(土)〜13日(日)「TOBIU CAMP 2015」開催(入場料がかかります)
    会場:飛生アートコミュニティー
       北海道白老郡白老町竹浦520(旧飛生小学校)

    TOBIU CAMP 2015 (トビウキャンプ2015)
    日時:2015年9月12日(土)~13日(日) オールナイト(キャンプイン)
       12日 開場12:00 開演13:00/13日 閉場14:00 雨天決行
    会場:飛生アートコミュニティー校舎と周囲の森
       北海道白老郡白老町竹浦520 (旧飛生小学校)
    入場:チケット発売中
    ◎前売 3,500円 予定枚数に達し次第販売終了
    ◎ウェブ前売予約 4,000円 [ウェブサイトにて要予約 ]
    ◎しらおい割前売券 3,000円[白老町内取扱店のみ:限定枚数]
    ◎当日 4,500円
    ◎大学生 2,500円 [メール予約の上、当日学生証掲示]
    ◎高校生以下 無料[保護者同伴のもと]
    駐車場:無料(会場まで徒歩約7分)

     

    *7 おたのしみ劇場ガウチョス:札幌を拠点に活動する人形劇団。マリオネットを使った人形劇は子どもから大人まで楽しめるユニークさがあり、北海道各地で上演している。

    *8 GIANT SWING:タイ・バンコクにて5年以上、北海道出身の日本人DJによってオーガナイズされてきたパーティー。mAsa niwayamaとNKchanのDJがTOBIUCAMP2015に登場。

    *9 マレウレウ:アイヌに昔から伝わる伝承歌を歌う4人組。様々なリズムのパターンで構成される『ukouk』というアイヌの輪唱は、聴く者を天然トランスな世界に誘い込む。

     

     

    インタビュー 山本曜子、小島歌織
    写真 飛生芸術祭実行委員会、小島歌織