シークレット歌劇團0931『ロミオとジュリエットと…』~甘く香る蒼き薔薇たち~レポート

神秘のベールに包まれたシークレット歌劇團0931。これ以上ファンが増えると年末公演のチケットがもっと取り難くなるので、できるならあまり知って欲しくないのが個人的な本音なのだ。今でこそ発売当日に全5ステージ分のチケットが完売してしまう。だからこっそり書くが、昔、札幌で開催されたカルト・ライブ・イベント「雑種天国」出演を皮切りに、単独での上演を行なうほど人気の彼女達(彼ら、もいるのだがここでは「彼女達」とする)の素性について、熱狂的ファンは多くを語らない。本レポートでもそんな無粋なことはせず、ただただ、その舞台の面白さと魅力についてお伝えしたい。

 

シークレット劇團0931

 

画像をご覧頂くと一目瞭然だが、関西を拠点とする某歌劇団へのオマージュなのである。美しい衣装とかつらを身につけ、時に演じ、時に歌い踊る「本編」と、休憩を挟んで繰り広げられる華麗な「レビュー」の二幕構成なのも同じだ。では何が違うのか。主宰者であり、脚本・総合演出をしている愛海夏子氏は自ら「よく見るのだ、何もかもが違うではないか!歌も芝居もダンスも三文、何をどうしたとしても酷過ぎる団体」と自団体をコケ卸している。潔いことこの上ない。要するに「観客を巻き込んだ大人の最上級のごっこ遊びのなれの果て」と公言しているのだ。さて、この団体とファンの独特な雰囲気を知らない人にはまだ伝わりづらいと思うので、もう少し丁寧に説明しようと思う。

 

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彼女達は自分たちのことを「中小貴族団体」、ファンを「平民」(“平和を愛する誠実な民”、並びに“平素より0931が大変お世話になっている忠実な民”の略)と呼び、毎年12月の週末に公演を行なう。舞台は、劇団ツートップの女性が男装をして主役を務め、娘役もいるし、男性による男装もある(...ん?)。芝居の演目は大抵多くの人が知っている物語などをベースに、一瞬パロディか?と見せかけ最終的にはいいオトナ達が、腹筋が痛くなるほど大爆笑し、最後にほろりと涙するオリジナルの愛と笑に溢れるストーリー展開なのだ。

 

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例えば今年13回目(=13年目)を迎えた舞台のタイトルは「ロミオとジュリエットと…」。打ち間違いではなく「ロミオとジュリエットと…」で、最後、誰も死んだりしない。ここで「なんだハッピーエンドか」と簡単に考えないで欲しい。シェークスピア原作「ロミオとジュリエット」にある「両家間に脈々と続く憎しみの連鎖に若い恋人たちが巻き込まれ、そして命を落とす」という誰もが知るストーリーをベースに、同じように憎しみと復讐の連鎖に巻き込まれ、テロや戦争の応酬のうちに若者達が命を落とすという現代(もしくはもっと身近な問題や日々)を、鑑賞者が知らず知らずのうちに重ね合わせていく。

 

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本舞台では、ロミオとジュリエットの仲を割こうと、ジュリエットの甥を憎しみで焚き付ける(ジュリエットの)母親がキーパーソン。ラストシーンで「何代にも亘り両家を憎しみあわせてきた男たちが悪いのよ。政略結婚せざるを得なかった自分の悲しみも、代々続いてきたし、この先も続いていく。何も変えられやしないなら、みんな不幸になればいい。私だけが不幸だなんていやよ」というような言葉を泣きながら吐露する。そして「あなたには私がいますよ」と立ち上がる身近な人物の存在が彼女を救い、若者たちは憎しみの連鎖から解放される。

 

 

現実はそんなに簡単じゃないと言う人もいるかもしれないが、誰かを負の連鎖に巻き込むのではなく「誰かの幸せを願う生き方」をする。ただそれだけ、ただその繰り返しによって何かが変わっていくのじゃないかなと希望を持ちたくなる舞台。このシークレット歌劇團0931が人々を惹き付けてやまない魅力のひとつは、こうしたまっすぐなメッセージが込められているからでもある。

 

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でもただ「感動して欲しい」という舞台ではない、だろうと思う。その年の流行語や話題の人物・時事ネタを絶妙なタイミングで、"これでもか"と盛り込んでいるので、鑑賞者は涙が出るほど笑う。これは笑わされるというよりは「笑いに行っている」ので「積極的に笑う」。それに、この劇場の"演者との距離が近い"という利点を最大限に生かし、某歌劇団並みの厚いメイクを施した彼女達が、もの凄い勢いで近づいてきては鑑賞者にアプローチしてくるのだ。思い切り視線が合う。その視線は決して外せない。それはもう「絡まれる」と言っても過言ではないが、この劇団ならではの楽しみのひとつだ。そして本編でほろりとした後の「レビュー」では、羽のいっぱいついたアレを背負ったまま客席や通路で「今年もありがとうございます」と90度の丁寧なお辞儀をするので、当然、羽の束が顔にバサバサあたり、また笑う。

 

 

この公演を「一年のご褒美」と言う人もいれば、「これで今年も無事に年を越せるね」と言う人もいる。息も絶え絶えに動き回る団員達が贈る3時間近い濃厚な舞台の間中、鑑賞者はそれぞれに一年の出来事を振り返り、前のめりになって思い切り笑い、時々泣いて、モヤモヤしていたものが消えて、また明日から頑張ろうと思う。彼女達の舞台はいつも「みんな、この一年よく頑張ったね」という愛に満ちたご褒美なのである。ちなみに定期的な不定期さで更新されている彼女たちのブログには「あと、かりんとうは好きですか?」と記されているのだが、気になる(全力で楽しみに行ける)人はぜひ次回、足を運んで確かめてみたらいいと思う。

 

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シークレット歌劇團0931
平成27年度公演『ロミオとジュリエットと…』~甘く香る蒼き薔薇たち~
日時:2015年12月11日(金)~13日(日)
会場:扇谷記念スタジオ・シアターZOO
住所:札幌市中央区南11条西1丁目 ファミール中島公園 B1F

http://www.sozo-art.com/0931_j.html
http://ameblo.jp/0931-0931/

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レポート:所村 文
写真提供:シークレット歌劇團0931