僕らは同じ夢をみる − 飛生芸術祭、TOBIU CAMP、そして森づくりとは?【後編】

photo : Ami Igarashi

 

— では木野さんにお聞きしますが、MAGICAL CAMPからTOBIU CAMPへと変わったいきさつとは?

木野 MAGICAL CAMPは3回テイネハイランドで開催した後、続けるつもりで札幌近郊の別な場所を探していたけど、グッとくる場所がなかったんです。そんなとき飛生で希根太と話していて、「森をつくろう」って話になったときに、それはすごいな!ってめちゃくちゃワクワクしたのが、TOBIU CAMPの始まりかな。ここで俺は本当の「つくる」っていう意味を知るんだなって思いました。だって、自分たちやお客さんが歩く道自体から、全部つくらないといけないわけだから。

MAGICAL CAMP とTOBIU CAMPは、対極にあるような気がしていて。MAGICALは都市にわざとカオスをつくりだすような、キラキラした刹那的な感じ。TOBIUは、完全に地べたに足がついて、自力の、自分たちのスピードで進んで、薮を切りひらかないと始まらないイベントなんです。

僕はTOBIU CAMPではなるべくその日だけの仮設物を減らしたい。そのときだけ置いて、終わったら撤収!じゃなくて、その次の年も使えたりそのまま残ったり、いつか朽ちて行くものがいい。でもそれって特別なことじゃなくて、実はあたりまえのことだなと実感できることがすごく新鮮だったし、TOBIU CAMPはそんなペースの中で演出を考えていきたいと思いました。

そもそも、イベントとしてアーティストだけを前面に出すというやり方もしなくなったし、むしろ僕たちスタッフは1年に5ヶ月くらい森に入って会場づくりをしているから、アーティストよりスタッフの想いのほうが強いんじゃないかな。アーティストはいちキャストでありいち演出のひとつ、TOBIU CAMPという時間を構成する人たちっていう捉え方です。

MAGICAL CAMPはいわゆる野外フェス的な志向だったけど、TOBIU CAMPはそれとはまったく違うものですね。

 

 

— その違いとは、どんなところにあるのでしょうか?

木野 TOBIU CAMPのキーワードは、物語。今回は昨年に引き続き、芸術祭のテーマが「僕らは同じ夢を見る」なんですが、TOBIU CAMPも一夜の物語にたとえられるんです。一夜、森や古い校舎で過ごすということや、その感覚のなかで見たり聴いたりすることって、非日常で、すごく特別な体験になると思うから。

象徴的なエピソードがあるんです。昨年、サックスやアコーディオンを演奏しながら人形劇をする「おたのしみ劇場ガウチョス(*7)」がキャストで参加してくれたとき、2回目の上演は夜だったから、子どもたちはみんな寝ていて見ていないはずでした。だけど翌朝、子どもたちが「昨日、人形劇見た?」「見た見た!」って言っているのを劇団の人が聞いて、”見ていないのに、まるで見たかのように話している、これこそ「僕らは同じ夢を見る」じゃないですか?”って僕に言ってくれたんです。飛生には、そういうことが起こるような力、シチュエーションがあるような気がしますね。

芸術祭ともリンクするけれど、僕がアーティストにオファーするときに伝えているのは、「あなたはこの飛生という場所でなにができますか?普段あなたが出演するようなライブ会場や、アート作品を展示するギャラリーでやっていることをそのままここでやっても、強くはないし、作品の伝えたい意図がマッチングするわけでもない。だからなるべく事前に一度この場所にきて、インスピレーションを感じてもらって、本番に制作や発表の照準を合わせてきてほしい」っていうこと。そのアーティストが出る前後の流れもあるし、そこでどんな表現をしたいのかを考えてほしい、という宿題を出しているようなもので…まあしかし、生意気なイベントですよね(笑)。

 

photo : Noriaki Kanai

 

— アーティスト側は、そのオファーにどう反応されますか?

木野 アーティストは、イベント側からそんな風に言われたことがないから「なんかすごいこと言いますね!」って、いい意味で言ってくれます(笑)。「表現者としてやっていくうえでの価値にプラスになるような気がしてすごく楽しみだ」と。

主催者側と、プロデューサーやディレクションで関わる人たちと、スタッフ達、そしてアーティストが全て同じ方向を向いたら、すごく強いものができると思いませんか?たとえば映画だと、最後エンドロールでずーっと名前が出るでしょう。ロケバスを運転した人やお弁当つめてくれた人の名前まであると聞いたことがあって、その人たちがみんな同じ台本を持っている。芸術祭やTOBIU CAMPは、その台本を何年も何年もかけてつくるんだから、そりゃあすごいものができるよ!っていう、大げさだけどそういう感じですね。

国松 そういう意味合いもあって、美術、音楽などジャンルにかかわらず、キャストっていう呼び方に統一してみんな並列にしているんです。美術作品は、大道具じゃないけど、ひとつの舞台の要素をつくっているっていう感じがありますね。お客さんも、その舞台を構成するキャストのひとりです。

木野 キャストには地元色も出していきたいと思っていて。たとえば今回ゲストで呼んでいる「GIANT SWING(*8)」はタイで5年以上続いている、世界中の人や音楽好きが集まるバンコクの中でも選りすぐりの素晴らしいパーティーで、それをつくっているのが北海道人であり、そのうちの1人が室蘭出身なんです。

そして、地元という意味では、白老にはアイヌ民族の存在がある。今やポロトコタン(アイヌ民族博物館)とのつながりができ、館長をはじめとして僕たちにいろいろ協力してくれたり、そこで働くアイヌの若者たちがTOBIU CAMPに参加してくれるようになったことは、ありがたいことだなあと思っています。

 

photo : Hideki Akita

 

— その中でも、マレウレウ(*9)による「ウポポ大合唱」は5年間続いていますね。これはどんな風景になるんでしょう?

木野 ウポポとはアイヌの伝承歌で、多くは輪唱です。リムセっていうのが踊り。このときはほかのステージを全部止めて、みんなで火の周りに集まります。大きな焚き火を囲んでみんなで円になって歌うんだけど、輪唱だから終わらないし、人間の声のエネルギー、倍音も発生する。全員でつくる儀式のようなもので、TOBIU CAMPの中でも象徴的な時間ですね。そこでアイヌの若者たちが踊るんです。

とくにアイヌ民族だからということではなく、大きな表現の時間軸の中で、同じ町に住んでいる先住民族の活動や表現が見られる時間があったらいいと思っているんです。こっちは演出を、向こうはパフォーマンスと人と時間とを、対等に出しあって良い場面をつくろうという想いがだんだん混ざり合ってきたという感じ。これってすごく大きなポイントだと思いますね。

国松 TOBIU CAMPでは土に足をつけて、本当に大きな火を囲んで踊るから、昔はこうだったんだろうなという踊りの雰囲気が再現できていると感じます。

木野 自分たちでやれることしかやらないとは言いつつ、もっともっと演出を作り込んでいきたい。去年から舞台の照明作家さんが関わってくれて、「暗闇をつくるために灯りをともす」っていう素晴らしいプロの仕事を見せてくれて、これこそ本当の物語だ!って思いました。大きな理想ですが、お客さんが、エントランスをくぐった瞬間に「あ、これは何かやばいな」って思ってくれるような仕掛けをつくっていきたいですね。

 

— TOBIU CAMP初心者の人のために、当日持ってきたら良いもの、また、メッセージをお願いします。

木野 テント、雨具、秋のキャンプだから防寒具、温泉セット、虫除けスプレー、懐中電灯、長靴、このあたりは必須。駐車場からちょっと距離があるから、荷物が多い人は、折りたたみ式のキャリーカートがおすすめ。小さいお子さんがいたり、どうしてもキャンプはできないって人は、近くに安い民宿や温泉宿もあるから、それを使ってもいいですしね。

国松 去年は小さな子ども連れの家族の参加がとても多かったですね。キャンプサイトにはファミリースペースがあるし、全部屋外ではなく校舎や体育館もあるので、キャンプのつもりで気軽に遊びにきてほしいなと。ちなみに、高校生以下は入場無料です。それと、TOBIU CAMP当日、実は人気なのがワークショップ。見たり聞いたりだけでなく、自分で手を動かすっていうのが楽しいんです。

木野 TOBIU CAMPは森で過ごす一夜を自分のペースで楽しめるのがポイント。アーティスト目当てというよりは、森をふらっと歩いたら誰かが演奏していた、それが誰なのか知らない…っていうのも、きっと面白いですよ。

 

photo : minaco.

 

< 前のページ [前編:飛生芸術祭、飛生の森づくりプロジェクトについて]  [ 1 ]  [ 2 ]

 

-----

 

【開催概要】

飛生芸術祭 2015「僕らは同じ夢をみる−」
会期:2015年9月6日(日)〜13日(日)
  *12日(土)〜13日(日)「TOBIU CAMP 2015」開催(入場料がかかります)
会場:飛生アートコミュニティー
   北海道白老郡白老町竹浦520(旧飛生小学校)

TOBIU CAMP 2015 (トビウキャンプ2015)
日時:2015年9月12日(土)~13日(日) オールナイト(キャンプイン)
   12日 開場12:00 開演13:00/13日 閉場14:00 雨天決行
会場:飛生アートコミュニティー校舎と周囲の森
   北海道白老郡白老町竹浦520 (旧飛生小学校)
入場:チケット発売中
◎前売 3,500円 予定枚数に達し次第販売終了
◎ウェブ前売予約 4,000円 [ウェブサイトにて要予約 ]
◎しらおい割前売券 3,000円[白老町内取扱店のみ:限定枚数]
◎当日 4,500円
◎大学生 2,500円 [メール予約の上、当日学生証掲示]
◎高校生以下 無料[保護者同伴のもと]
駐車場:無料(会場まで徒歩約7分)

 

*7 おたのしみ劇場ガウチョス:札幌を拠点に活動する人形劇団。マリオネットを使った人形劇は子どもから大人まで楽しめるユニークさがあり、北海道各地で上演している。

*8 GIANT SWING:タイ・バンコクにて5年以上、北海道出身の日本人DJによってオーガナイズされてきたパーティー。mAsa niwayamaとNKchanのDJがTOBIUCAMP2015に登場。

*9 マレウレウ:アイヌに昔から伝わる伝承歌を歌う4人組。様々なリズムのパターンで構成される『ukouk』というアイヌの輪唱は、聴く者を天然トランスな世界に誘い込む。

 

 

インタビュー 山本曜子、小島歌織
写真 飛生芸術祭実行委員会、小島歌織