NEVER MIND THE BOOKS 2015 開催決定! - つくるを楽しむ「ZINE」のススメ
- INTERVIEW
- May 18, 2015 07:18 PM
2011年、札幌のデザイナー菊地和広さんが衝動的に個人で主催したZINE(インディペンデント、自費出版の小冊子)販売イベント、「NEVER MIND THE BOOKS」。その後、回を重ねながら札幌の恒例ZINEイベントとして定着しつつあり、2014年は道外のZINEイベント団体との交流を行い、その活動の幅も広がっています。
今年も7月20日海の日に、4回目の開催が決定。主催者であり、つくり手でもある菊地さんに、ZINEのおもしろさやイベントについて伺いました。
—札幌でZINEのイベントを始めたきっかけを教えて下さい。
もともと、紙媒体での表現が好きだった僕は、フリーペーパーみたいな紙もの作品をいろいろつくっていたんです。それをゲリラ的に配ったり売ったりしていたんですが、2009年から東京で行なわれているZINEの一大イベント、「THE TOKYO ART BOOK FAIR」(*1)に作り手として参加したことが、「NEVER MIND THE BOOKS」のそもそものきっかけになりました。自分のつくったZINEを直接お客さんに販売するという体験が新鮮で、すごく楽しかったんです。
なかでも面白いエピソードがあって。「THE TOKYO ART BOOK FAIR」は数日間開催され、販売会場では数多くのブースが設けられてたくさんの出店者が並びます。僕は初日から行って、それなりに頑張ってつくったものを持ち込んで売るじゃないですか?でもそうそう売れないわけですよ。あるときふと自分の隣のブースを見たら、その場でZINEをつくっている人がいたんです。間に合わなかったのかなんなのかわからないけど(笑)、手を動かしながら、売りながら、ということをやっていたのが印象的でした。
翌日2日目の朝に、たまたま「なでしこジャパン」が優勝したというので街が沸いて、号外が出ていた。その号外を一応もらって、かばんにしまって会場に向かいました。そして会場でまた周りがZINEをつくっているのを見て、「俺もやりたいな」って思った。そこで、もらった号外を折って、はさみで切って、めちゃめちゃにいたずら描きしてホチキスで留めて売ってみたんです。即興で。そしたら売れたんだよね〜!(笑)むしろ自分でつくってきたものよりも反応が良くて「うわー、これって成立しちゃうの?」と。もうめちゃくちゃだよね(笑)。
—世界にひとつのアートブックという扱いになったんでしょうね。
そう。そういう感覚は今までなかったから、これが成り立つとわかって、すごく面白くなってきたんです。そして、こういったZINEイベントを自分でやりたいなと。札幌でも「THE TOKYO ART BOOK FAIR」に参加する人が増えてきたし、ある瞬間に「もしかして、自分でもできるんじゃないか」っていう衝動が生まれてきた。
そのベースには、色んな展示やイベントに参加したり観たりするうちに抱いていた「札幌は観る側としてでなくプレイヤーとしてなにか作りたいと思っている人が意外と多いのではないだろうか?」という感覚があって。もしそうなら、ZINEイベントは札幌にぴったりかもしれないと思ったんですよね。
—その衝動とイメージから、初めてのZINEのイベント「NEVER MIND THE BOOKS」を開催するわけですね。
やろう!と突発的に思い立って、決めてから開催まで2週間という短期間で、準備から人を集めることから基本一人でやりました。我ながらよくできたなと。とはいえ、知り合いもいないし、参加者をどうやって募集したのかも覚えていないです(笑)。ATTIC(*3)で開催した初回は、出店がZINEでなくても良くて、つくっているものを販売するというイベントでした。最初は、出店の応募が5組くらいしか来なかったらどうしよう?と不安もあったものの、急な募集にも関わらず15組ほどが参加してくれたんです。お客さんの入りも良くて、盛況に終わりました。
今でもそうだけど、周りがすごいというか偉いというか、参加から手伝いから、いろいろとやってくれるんですよ。この土壌に感謝しなければといつも思ってます。
—初回の手応えを感じて、その後もZINEイベントを継続しようと?
とりあえず一人でやってみて、良かったなぁとのほほんとしていたら、思いがけず好評で「またやらないの?」という声が多かったので、次のイベントの構想をあたためていた。その頃、ZINEのつくり手でもあるデザイナーの3人と「一緒にイベントをやりたいね」と話していたんです。
その構想を、札幌の大人気マーケットの「LOPPIS」(*2)さんの運営チームに話したら、「NEVER MIND THE BOOKS」をもう少し大きくちゃんとした形でイベントにして、一緒にやりませんか?と誘ってもらえたんです。デザイナーの3人を実行委員として迎え、ひとまわり大きなイベントとして2013年、「LOPPIS」さんとともに二回目の「NEVER MIND THE BOOKS」を開催しました。
-NEVER MIND THE BOOKS 2013の会場風景
—「LOPPIS」さんと同時開催してみて、反響はいかがでしたか?
「LOPPIS」さんそのものにお客さんがたくさん来てくれて、大盛況でした。そこからの流れで「NEVER MIND THE BOOKS」も賑わっているように見えたし、僕自身も「僕らのイベント、すごく盛り上がってるな!」と満足していました(笑)。
出店者は前回の倍に増えて、30組を越えました。イメージはあったものの、正直、札幌に、こんなにつくり手がいるんだ!と思うくらい。この回から、実行委員によるチョイスの委託ブースも設けています。
—出店者の方たちがとても個性豊かで、お客さんも自分のお気に入りを見つける楽しみがありますね。
うちのイベントは紙もの作品さえ出していれば、小物や雑貨、パブリック的な商品も販売OKなので、これにめがけて、小さい冊子をつくってくるお店、個人も多い。参加者の幅が広いんです。層としては個人からお店、ギャラリーなども出してくれているし、ジャンルとしてはアート、デザイン、写真、音楽、漫画…とさまざま。年齢は、高校生以上であれば参加OK。プロのデザイナーの方が参加してくれているのもいい。お客さんにとっては見応えがあるし、参加者同士ではつくる刺激になる場。札幌だけではなく、道内、道外からの出店者もいます。
今年も5月末まで出店者を募集しているので、ぜひふるってご応募ください。
—2014年は「NEVER MIND THE BOOKS」単体で、テレビ塔での開催でしたね。
「年に一回開催」というスタンスを意識しているわけではないものの、なんとなく「去年はこうやったから、今年はどうしよう」「あれをやってみたい」って気持ちが出てくるんじゃないかな。イベントって、一回きりとか、すぐ終わったとかいうのはちょっとしゃくだし、続けてこそだと思っていて。「LOPPIS」さんとの回が終わった時点で、次は純粋に自分たちだけで場所を借りてやろうと思ってたので、ずっと狙っていたテレビ塔での開催を決めました。
僕は個人的にテレビ塔がすごく好きで。昔から普遍的にあるけれど、あまり行く機会がない…そんなごく普通のところで、展示でもイベントでもいい、何か文化的なことをやりたかった。「NEVER MIND THE BOOKS」をやり始めたので、ちょうどいい、ここでやろうと。
イベントを開催するにあたっては、この場所でこんなことをしたいというような、着眼点が大事だと思っています。それがイベントの顔になったり、自分のカラーになる。僕はそういうアイディアを普段から、しめしめとね、ストックしてるんです(笑)。しかもテレビ塔って電波にかかわってるし、いいぞ、ここから札幌に電波を発信するつもりでやろう、と。適当な感じですけど(笑)。
-「10zine」をゲストに迎えて、福岡のZINEを販売
—2014年の開催を振り返ってみていかがでしたか?
前年「LOPPIS」さんと同時開催したことが妙な自信になって、僕個人は、これはいける!と思ってました。他の実行委員は不安だったらしいけど(笑)、フタを開けてみたら、なんと50組も出店してくれて、さらに規模が大きくなりました。しかも、毎回そうですが、面白いなあと思うものをつくっている方がたくさんいる。
前回は、ご縁ができた道外のZINEイベントと交流を持てたこと、それぞれのイベントに参加しあえたことも大きな収穫でしたね。福岡でイベントを行っている「10zine」さん、浜松でワークショップを行っていた「ZING」さんをゲストとしてお呼びしたり。僕らも視察をかねて行ってきたんですが、すごくよかったんですよね。それぞれ地方色を活かした、とてもクオリティの高いイベントでした。参加者さんたちの、自分の考えているものを紙に定着させる力がすごくて、つくり手としてもたくさん刺激を受けた。地方でやっている人たちの存在が、札幌でまだまだ出来ることがあるんだという自信に繋がりましたね。
—つくり手でもある菊地さんにとって、ZINEの魅力とは?
やっぱり、最初に話した、いたずら描きしたものが普通に売れてしまうって言うことに集約されていると思う。感性だけで勝負できる。だって普通に生活していたら、そんな状況ってなかなかないでしょ?そういう感覚を味わえることですね。
それと、ZINEは手書きでも、印刷でも、コピーでもつくれる。いろんな手法が使えて、表現の振り幅がある。一枚の紙をポンと与えられた時に、自分が何をつくれるだろう?と考えるのも楽しいです。
ZINEをつくったことがない、またはやってみたいけどなかなか…という人も、手を動かしてつくってみるとわかることがあるので、是非やってみて欲しいですね。なんだったらもう何も考えないで、その場でつくってもいいわけだし、そういう方もいますね。たぶんね、あれは間に合わなかったんだと思う(笑)。
うちのイベントは対面販売だから、ダイレクトにお客さんから反応をもらえるのもいいんです。手売りって、結構ビビるででしょ。最初はお客さんとうまく話せないとか、どうしたらいいの?っていう体験も、後から、こういうとき自分だったらこうするんだなって客観的に思い返して楽しかったり、刺激になったりする。
お客さんとしてイベントを楽しんでもらうのはもちろん歓迎。ただそれ以上に、つくり手として参加して、手売りをするということがすごく楽しいので、絶対にオススメですね。売り手さんには、自分のブースをあけっぱなしでよそに行っちゃってる人もいる。なんでもいいわけですよ、もはや。それが面白いっていうのもある。イベントを開催する時期はテレビ塔の下でジンギスカンをやってるからそれめがけて来てもらってもいいし。もはやZINEと関係なくなってますね(笑)。
-浜松からのゲスト「ZING」が行ったワークショップ
—つくることと売ること、どちらも楽しめる場でもあるわけですね。
そうです。かといって、「自分で、手でつくることが大事!」という意識もあまりない。僕がつくっていて気持ちのいいものって感じかな、とくにメッセージ性はないんです。ただ、ZINEっていうものが文化の中にあるなら、その面白さを伝達したいなという感覚でやってます。僕も、一応代表だけど、肩の力を抜いて楽しんでいます。
ちなみに去年はZINEづくりのワークショップを開催したんですけど、参加してくれた小学生の男の子の作品に嫉妬した(笑)。もう自由に衝動的につくっているんだけど、発想がすごくって、天才だ!って思いましたね。
—印象的なイベントタイトルは、初回に菊地さんが命名されたものですか?
はい、ピストルズのアルバムタイトルですね。ダジャレ。反骨精神とか全くない。行き当たりばったりな命名をしてしまって、ちょっと長かったかなと後悔していますが、これにしてよかったと思うのは、自分達のカラーが出ているところですね。ぱっと見、ZINEのイベントなのかどうかわからないのもいい(笑)。僕は個人的に、このイベントがマルシェまで進化していってもいいと思っているんですよね。いかようにも変化していけるなと。
—7月20日、海の日の開催。4回目となる今回も、テレビ塔での開催です。
もう三年、だけどまだ三年。常日頃考えているアイディアをこれからどう形にしていくかがテーマだなと。今年も海の日一日限りで、テレビ塔の2階に、幅広くいろんなZINEが集結します。ジャンルを問わない、紙っていうものを通しての発表の場ですね。自分も参加者として楽しみです。
19時半までやっているので、おでかけのついでにでも立ち寄ってみてもらえたら。ちなみに、テレビ塔の2階はかなり高いところなので、階段ではなくエレベーターに乗ってきて下さいね。
NEVER MIND THE BOOKS 2015
日 時:2015年7月20日(月・祝)11:00 – 19:30
会 場:さっぽろテレビ塔2F しらかば・あかしあ・はまなす(札幌市中央区大通西1丁目)
入場料:無料
*1 THE TOKYO ART BOOK FAIR
2009年から毎年定期的に東京で開催されている、現在アジアで最大規模のアートブックに特化したブックフェア。日本で本にまつわる活動を行う UTRECHT とロンドンのクリエイティブチーム PAPERBACK によるZINE’S MATEが主催。国内外のアートブックやZINEの発行者が直接プレゼンテーションする機会を目的に開催。2014年には出展者数350組、来場者数1万人を超える大きなフェアに成長。アーティストや出版社が一同に集結し、進化を続けるアーティストブックの世界観を体感することができる場となっている。
*2 LOPPIS
札幌を中心にした北海道各地のインテリア、雑貨ショップ、カフェ、ベーカリー、手工芸作家が集う、豊かなライフスタイルを提案する週末マーケット。2010年のスタート以来人気を博し、札幌のみならず道内各地で出張マーケットも行っている。2015年は札幌盤渓スキー場で6月5日(金)〜7日(日)開催。
*3 ATTIC
札幌の狸小路裏のビルにあったフリースペース。展覧会、ライブ、上映会など、サブカルチャーを中心に多種多様なイベントを開催していた。2013年12月に惜しまれつつ閉館。
菊地 和広/Kazuhiro KIKUCHI
1974年生まれ、札幌在住。
2010年より“バックヤード”の屋号でアートディレクションとデザインを手掛けつつ、
自主制作のZINEやグラフィックポスター、オリジナルプロダクトなどの制作活動もおこなう。
NEVER MIND THE BOOKS代表。
インタビュー:山本曜子
撮影:minaco.(footic)、NEVER MIND THE BOOKS事務局、山本曜子
撮影協力店:寿珈琲