• シークレット歌劇團0931『ロミオとジュリエットと…』~甘く香る蒼き薔薇たち~レポート

    神秘のベールに包まれたシークレット歌劇團0931。これ以上ファンが増えると年末公演のチケットがもっと取り難くなるので、できるならあまり知って欲しくないのが個人的な本音なのだ。今でこそ発売当日に全5ステージ分のチケットが完売してしまう。だからこっそり書くが、昔、札幌で開催されたカルト・ライブ・イベント「雑種天国」出演を皮切りに、単独での上演を行なうほど人気の彼女達(彼ら、もいるのだがここでは「彼女達」とする)の素性について、熱狂的ファンは多くを語らない。本レポートでもそんな無粋なことはせず、ただただ、その舞台の面白さと魅力についてお伝えしたい。

     

    シークレット劇團0931

     

    画像をご覧頂くと一目瞭然だが、関西を拠点とする某歌劇団へのオマージュなのである。美しい衣装とかつらを身につけ、時に演じ、時に歌い踊る「本編」と、休憩を挟んで繰り広げられる華麗な「レビュー」の二幕構成なのも同じだ。では何が違うのか。主宰者であり、脚本・総合演出をしている愛海夏子氏は自ら「よく見るのだ、何もかもが違うではないか!歌も芝居もダンスも三文、何をどうしたとしても酷過ぎる団体」と自団体をコケ卸している。潔いことこの上ない。要するに「観客を巻き込んだ大人の最上級のごっこ遊びのなれの果て」と公言しているのだ。さて、この団体とファンの独特な雰囲気を知らない人にはまだ伝わりづらいと思うので、もう少し丁寧に説明しようと思う。

     

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    彼女達は自分たちのことを「中小貴族団体」、ファンを「平民」(“平和を愛する誠実な民”、並びに“平素より0931が大変お世話になっている忠実な民”の略)と呼び、毎年12月の週末に公演を行なう。舞台は、劇団ツートップの女性が男装をして主役を務め、娘役もいるし、男性による男装もある(...ん?)。芝居の演目は大抵多くの人が知っている物語などをベースに、一瞬パロディか?と見せかけ最終的にはいいオトナ達が、腹筋が痛くなるほど大爆笑し、最後にほろりと涙するオリジナルの愛と笑に溢れるストーリー展開なのだ。

     

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    例えば今年13回目(=13年目)を迎えた舞台のタイトルは「ロミオとジュリエットと…」。打ち間違いではなく「ロミオとジュリエットと…」で、最後、誰も死んだりしない。ここで「なんだハッピーエンドか」と簡単に考えないで欲しい。シェークスピア原作「ロミオとジュリエット」にある「両家間に脈々と続く憎しみの連鎖に若い恋人たちが巻き込まれ、そして命を落とす」という誰もが知るストーリーをベースに、同じように憎しみと復讐の連鎖に巻き込まれ、テロや戦争の応酬のうちに若者達が命を落とすという現代(もしくはもっと身近な問題や日々)を、鑑賞者が知らず知らずのうちに重ね合わせていく。

     

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    本舞台では、ロミオとジュリエットの仲を割こうと、ジュリエットの甥を憎しみで焚き付ける(ジュリエットの)母親がキーパーソン。ラストシーンで「何代にも亘り両家を憎しみあわせてきた男たちが悪いのよ。政略結婚せざるを得なかった自分の悲しみも、代々続いてきたし、この先も続いていく。何も変えられやしないなら、みんな不幸になればいい。私だけが不幸だなんていやよ」というような言葉を泣きながら吐露する。そして「あなたには私がいますよ」と立ち上がる身近な人物の存在が彼女を救い、若者たちは憎しみの連鎖から解放される。

     

     

    現実はそんなに簡単じゃないと言う人もいるかもしれないが、誰かを負の連鎖に巻き込むのではなく「誰かの幸せを願う生き方」をする。ただそれだけ、ただその繰り返しによって何かが変わっていくのじゃないかなと希望を持ちたくなる舞台。このシークレット歌劇團0931が人々を惹き付けてやまない魅力のひとつは、こうしたまっすぐなメッセージが込められているからでもある。

     

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    でもただ「感動して欲しい」という舞台ではない、だろうと思う。その年の流行語や話題の人物・時事ネタを絶妙なタイミングで、"これでもか"と盛り込んでいるので、鑑賞者は涙が出るほど笑う。これは笑わされるというよりは「笑いに行っている」ので「積極的に笑う」。それに、この劇場の"演者との距離が近い"という利点を最大限に生かし、某歌劇団並みの厚いメイクを施した彼女達が、もの凄い勢いで近づいてきては鑑賞者にアプローチしてくるのだ。思い切り視線が合う。その視線は決して外せない。それはもう「絡まれる」と言っても過言ではないが、この劇団ならではの楽しみのひとつだ。そして本編でほろりとした後の「レビュー」では、羽のいっぱいついたアレを背負ったまま客席や通路で「今年もありがとうございます」と90度の丁寧なお辞儀をするので、当然、羽の束が顔にバサバサあたり、また笑う。

     

     

    この公演を「一年のご褒美」と言う人もいれば、「これで今年も無事に年を越せるね」と言う人もいる。息も絶え絶えに動き回る団員達が贈る3時間近い濃厚な舞台の間中、鑑賞者はそれぞれに一年の出来事を振り返り、前のめりになって思い切り笑い、時々泣いて、モヤモヤしていたものが消えて、また明日から頑張ろうと思う。彼女達の舞台はいつも「みんな、この一年よく頑張ったね」という愛に満ちたご褒美なのである。ちなみに定期的な不定期さで更新されている彼女たちのブログには「あと、かりんとうは好きですか?」と記されているのだが、気になる(全力で楽しみに行ける)人はぜひ次回、足を運んで確かめてみたらいいと思う。

     

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    シークレット歌劇團0931
    平成27年度公演『ロミオとジュリエットと…』~甘く香る蒼き薔薇たち~
    日時:2015年12月11日(金)~13日(日)
    会場:扇谷記念スタジオ・シアターZOO
    住所:札幌市中央区南11条西1丁目 ファミール中島公園 B1F

    http://www.sozo-art.com/0931_j.html
    http://ameblo.jp/0931-0931/

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    レポート:所村 文
    写真提供:シークレット歌劇團0931

     

  • 札幌国際芸術祭の新しい拠点がオープン

    2014年7月19日から72日間にかけて札幌ではじめて開催された札幌国際芸術祭2014。ゲストディレクターに坂本龍一氏を迎え、市内18会場を舞台に64組のアーティストによる作品が展開された。札幌国際芸術祭は「都市と自然」を基本テーマに3年に1度、芸術監督を迎えて開催を予定しており、次回開催へ向けた活動の拠点として、雪まつり会場としても有名な大通公園の西端にある札幌市資料館内に、SIAFラウンジとSIAFプロジェクトルームの2室をオープンした。

    札幌市資料館は大正15年に札幌控訴院(今で言うところの裁判所)として札幌軟石を使って建てられた建造物で、1997年には国の登録有形文化財に選定された。その後、裁判所の移転に伴い札幌市資料館として開館。札幌の歴史を紹介するとともに、市民が利用できるレンタルギャラリーなどを併設し運用されている。今回その中の2室を札幌国際芸術祭の拠点とした形だ。

    札幌市資料館は札幌国際芸術祭2014でも会場の1つとして「SIAF2014 アクティビティ拠点プロジェクト」と銘打ち、インフォメーションセンターやカフェなどを設置。来場者が気楽に過ごせる空間とともに、深澤孝史によるとくいの銀行 札幌支店since1869/札幌市開開拓資料館や冨田哲司がコーディネートを努めたサッポロ・エホン・カイギなど来場者や市民が参加することで完成するアートプロジェクトが複数展開された。またボランティアセンター機能も有し、多くのボランティアスタッフが札幌市資料館を基点として動くなど、アーティスト・来場者・ボランティアが混ざりあう空間となっていた。

    こういった使い方を延長するかのように今回オープンしたSIAFラウンジとSIAFプロジェクトルームは、より多くの市民が札幌国際芸術祭に関心をもち、理解を深めるきっかけとなる場を目指してオープン。ここでの取り組みを通して、芸術祭の様々な担い手を繋ぐ拠点となることを目指している。

    札幌市資料館1FにオープンしたSIAFラウンジは過去の札幌国際芸術祭の記録や関連書籍が閲覧できるライブラリーを兼ね備えたインフォメーションセンター。札幌国際芸術祭の記録はもちろん、様々な芸術文化に関する書籍が所蔵されており、気軽に立ち寄り交流できるスペースとして機能する。wifiや電源も完備しているので簡単な打合せなどにも利用できる。2FのSIAFプロジェクトルームは、次回の札幌国際芸術祭へ向けてワークショップやレクチャーなどを実施、そこでの活動を披露する展示スペースとしても活用される予定だ。

    SIAFプロジェクトルームはプログラム実施時のみオープン。現在予定されているものでは7月4日・5日にここで行われるプログラムの解説と次回札幌国際芸術祭へ向けた展望について参加者と話し合う「SIAFパブリックミーティング」を開催予定だ。1FのSIAFラウンジは本日4月28日よりいつでも利用可能(9:00~19:00/月曜定休)。

    現代美術の祭典であるビエンナーレ(2年に1回)やトリエンナーレ(3年に1回)は、現在日本各地で行われている。横浜トリエンナーレやあいちトリエンナーレなどが有名だが、今年初開催されたPARASOPHIA: 京都国際現代芸術祭2015や、先日2016年初開催が発表されたさいたまトリエンナーレなど、まさに1地方都市1芸術祭の勢いだ。

    フェスティバルが行われている期間は多くのアーティスト作品が並び、来場者や参加する市民も盛り上がりを見せるが、開催期間外はどの都市でも準備に当てられている。その準備期間で行われる取り組み如何によって、芸術祭がただの一過性の祭りになるのか、街の文化を育てていく存在となるかが大きく変わってくる。今回の札幌での取り組みが今後どのようになっていくのか、今後注目していきたい。

     

    レポート:カジタシノブ
    写真提供:創造都市さっぽろ・国際芸術祭実行委員会 国際芸術祭事務局
         photo by Erika Kusumi

  • 手に取る宇宙 Message in a Bottle 地上ミッション - モエレ沼公園

    3月14日(土)、モエレ沼公園内のガラスのピラミッドにて「手に取る宇宙 地上ミッション モエレ沼公園」が開催されました。子ども連れの家族や中高生など、若者の参加者が目立ったこのイベントの様子をお伝えします。

     

    「手に取る宇宙」とは、彫刻家・松井紫朗さんが代表提案者となり、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と協力して実施された、宇宙と地球を舞台にしたプロジェクトです。宇宙研究でもありアートプロジェクトでもあるその内容は、2つのミッションから成り立ちます。1つ目は、宇宙の空気/存在のかけらを細長いガラスのシリンダーに詰め込み、地球へ持ち帰るというもので、実際に2010年から2013年にかけて、国際宇宙ステーション「きぼう」の日本実験棟で実行されました。2つ目は、地球へ持ち帰った宇宙のかけらを、多くの人に手に取ってもらうという地上を舞台にしたミッションで、2014年、帯広市の「ごろすけ保育園」で初開催されました。その後は道内の美術館や高校、また奈良県の東大寺など、道内・全国各地で行われています。今回のモエレ沼でのイベントも、この地上ミッションの一つ。ガラスのピラミッドには、宇宙船のような白いドームが現れました。

     

    - ガラスのピラミッドに出現した、地上ミッションで使用するビニール製のドーム。松井さんと共に各地を巡っている。

     

    前半は、松井紫朗さんによるレクチャーが行われ、「手に取る宇宙」という壮大なプロジェクトの発想の源やそこに込めた思い、1度の失敗を経て2回目でようやく実現した宇宙でのミッションの様子などが映像付きで説明されました。

    松井さんは「内側と外側の境界」をテーマに、国内外の美術展や個展で精力的に立体作品などを発表し続けています。その作品たちの、見た目はどこかユーモラス。しかしじっくり見ていると「果たしてどこまでが内側でどこまでが外側なのだろうか?」「そもそも自分が今いる場所はどういう所なのだろうか?」と、空間に対する考え方や感覚が刺激される面白さが松井さんの作品の魅力です。

     

    -「宇宙のしっぽを掴んだと思ったら、プチンとちぎれてしまった。ガラスの中にはこの宇宙のしっぽが入っています。実際に行くことはできないけれど、その一部を掴んだら、自分も宇宙の一員になった気がしませんか?」と、イラストを使い説明をする松井さん。

     

    -ぬいぐるみやガラスケースを使い、自身のテーマである「内側と外側の境目」について説明中。子どもたちもすぐに理解できたよう。

     

    「手に取る宇宙」は、宇宙空間という一般の人ならば行くことのできない場所に行ってみたい、触れて確かめてみたいという想いが根本にあると松井さんは言います。宇宙そのものに触れることはできませんが、その境目になら触れることができると考えて、宇宙飛行士に依頼し、宇宙の一部をガラスシリンダーに入れて持ち帰ってもらいました。

    地球に持ち帰った後は、それをなるべく多くの人に手に取ってもらいます。宇宙の一部を手に取った時、今宇宙で活動している人々やかけがえのない地球、自分という存在など、たくさんのことを感じることができるからです。また、ミッションの参加者は感想を紙に書きます。その内容は一枚一枚映像として記録され、10年後や20年後の人々も見ることができます。その頃になると、人間と宇宙、地球と宇宙の関係は今と全く違っているかもしれませんが、人々が昔宇宙に対して抱いていた想いを知ることは、未来を創造していく上で重要なことかもしれません。「この一人ひとりの感想が未来へのメッセージとなってほしい」と松井さんは語ります。

    レクチャーにはガラスシリンダーの設計に携わったJAXAの職員も駆けつけ、宇宙服で作業することを考慮した設計や、1回目はシリンダーが壊れて失敗してしまったことなど、技術者の目線でプロジェクトの経過を振り返りました。

     

    - 国際宇宙ステーションで撮影された映像。宇宙飛行士が手にしているのは内側にガラスシリンダーが入ったケース。

     

    レクチャーの最後には参加者から松井さんやJAXA職員の方への質問コーナー。「アーティストが宇宙に行くことはできるのか?」という質問に対し、JAXA職員の方が「特殊な訓練を受けなければ宇宙へ行くことはできないので、今の段階ではアーティストが宇宙へ行くことは難しい。しかし宇宙の概念を人々に広く伝える時に、アーティストの果たす役割は大きい」と答えていたのが印象的でした。現在は地域おこしや教育など、多くの場所で芸術家が活躍していますが、宇宙という一見芸術とは関係の無さそうな分野でさえも、芸術が果たせる役割は確実にあるというのは興味深いことです。

     

    レクチャー後は白いドームが設置されたガラスのピラミッドの2階へ移動。いよいよ宇宙のかけらを手にする時間です。

    10人ほどのグループでドームの中に入り、松井さんの説明を受け、一人ずつ順番に宇宙のかけらが入ったガラスシリンダーを手にします。生まれて初めて宇宙の断片を手にすることの喜びや緊張、興奮や感動など、一人ひとり様々なことを思いながら手にしたことでしょう。

     

     

    ドームを出た後は、宇宙のかけら手に持った時の感想を紙に書きます。カラフルなイラストを書く人、長い文章を書く人、一言で全てを表す人、ポエムを書く人など様々です。

    そしてミッションはいよいよクライマックスへ。各自が感想を書いた紙を持ち、再びドームへ入ります。一枚ずつ感想を写真に撮り、一人ひとりのメッセージが宇宙の彼方へ飛んでいく映像を皆で見送りました。感想を書いた紙は、専用の筒に入れ、各々が家に持ち帰ります。「10年後や20年後、ふとした時に思い出して見てみてほしい」と松井さんは語っていました。自分の子どもや孫がメッセージを目にすることもあるかもしれません。

    ミッションの参加者の感想は、「手に取る宇宙」のホームページで見ることができます。今回の地上ミッションに参加できなかったとしても、この感想を見ることで、宇宙に触れた喜びを感じることができるはず。

     

    -宇宙へ飛んでいくメッセージを見送る参加者達。

     

    - 宇宙の映像を映すドームが、ガラスのピラミッドをいっそう幻想的な空間に。

     

    未知なるものに触れる喜びや好奇心、果てしない宇宙とかけがえのない地球への想い、未来を生きる人々へのメッセージ…など、幾重にも意味が込められたプロジェクト「手に取る宇宙」。今回はモエレ沼公園のガラスのピラミッドという、自然や空を見渡せる空間で行われたことで、参加した人々は宇宙と地球のつながりを一層強く感じたのではと思います。今後も地上プロジェクトは全国各地で開催していく予定。宇宙を手にした時、どんな感情が湧き出てくるのでしょうか。ぜひ、自分自身で確かめてほしいと思います。

     

    松井紫朗/Shiro Matsui
    彫刻家
    1960年奈良県天理市生まれ。
    1983年の初個展以来、多様な素材、ユーモアと理知を備えた独自の立体造形で、1985年には兵庫県立近代美術館の「ART NOW 85」展に選出されるなと、関西ニューウェーヴを担う若手のひとりとして注目を集める。
    1991年よりシリコンラバーを使った半立体、立体作品の制作を開始、ドイツをはじめ海外でも展覧会が開催される。
    1997年よりテント用の素材を使ったトンネル状の大作を発表、スパンデックスやリップストップと呼ばれるナイロン素材のバルーンを使ったサイトスペシフィックな作品を次々と展開。自然科学の原理を応用した作品等で、人間の知覚や空間認識に揺さぶりをかける。JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同実験では宇宙での庭作り(「宇宙庭」)や容器に詰めた宇宙空間の持ち帰り(「Message in a Bottle」)を試みる。
    2013年 札幌宮の森美術館で個展を開催。
    現・京都市立芸術大学教授
    http://www.shiromatsui.com/

     

    手に取る宇宙 Message in a Bottle 地上ミッション - モエレ沼公園
    日時:3月14日(土)16:00~18:30
    場所:モエレ沼公園ガラスのピラミッド スペース1・アトリウム2
    主催:公益財団法人札幌市公園緑化協会
    企画:札幌宮の森美術館+NPO法人 CAPSS
    協力:独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 / 株式会社インフォート / team茶室 / 京都大学学術情報メディアセンター / 森幹彦・元木環 / 京都市立芸術大学VD研究室 / 辰巳明久・松原仁 / Michael Whittle / Charles Worthen / 札幌市中央図書館
    http://www.m-in-a-bottle.org/

     

    レポート:山内絵里
    撮影:佐藤史恵

  • REPORT メディアアート・ラボから考える都市文化 vol.2「ラボから生まれるアート -ライゾマティクス-」

    こんにちはART AleRT編集部です。

    2015年1月20日、MIRAI.ST cafeにて「メディアアート・ラボから考える都市文化 vol.2」と題して「ラボから生まれるアート -ライゾマティクス-」が開催されました。今回はその様子をレポートします。今回のトークは昨年9月のに行われたイベントの第2弾。

    ゲストは、メディアアートを中心に幅広いフィールドで活躍し、国内外から注目をあつめているクリエイティブ集団「ライゾマティクス」の真鍋大度氏と石橋素氏。Perfumeライヴ演出やauのテレビCMシリーズなどなど、彼らを知らなくても手掛けたコマーシャルやミュージックビデオをあげれば、知っている人も多いのでは?

    今注目を集める豪華なゲスト陣ということもあり、会場は予約の段階で定員オーバーとなり、当日は立ち見席やライブビュースペースが設けられるほどの盛況ぶり。この日はJRや飛行機が一部運休になるほどの大雪。飛行機の都合で、ゲストの到着が遅れてスタートとなりましたが、その分「生の声」が聞けるかも?と観客席の期待は膨らみます。

     

    最初のお話はライゾマティクスを立ち上げたいきさつから。

    立ち上げた2006年、世間では少しずつWEBとリアルをつなぐようなプロジェクトが盛んになってきた頃。当初からインタラクティブな広告を作っていこうと思っていたのか?という問いに、「当時から今まで、広告を意識してやろうとは考えていなかった」という真鍋さん。インタラクティブ作品を見たクライアントが、面白がって使ってもらえるようになっていったそう。石橋さんは「当時Youtubeがあまり普及してなかったので、DVDに焼いて見せていた」と振り返ります。とにかく数を作って見せることを繰り返していたそうです。

    その後、筋電位センサーと電気刺激デバイスを用いて表情をコピーする実験プロジェクト「“Face Visualizer”,“Face Instrument”」を発表。Youtubeで一躍話題になりました。Perfumeのライブ演出を手がけていた演出振付家のMIKIKOさんに出会い、作品を猛アピール。これをきっかけにエンターテインメントへの活動が広がっていったそうです。


    2010年、Perfume東京ドームツアーでは風船爆破システム部分を担当。巨大な箱へと活動場所が移ってから、制作方法はどう変わっていったのか?スタッフの数の変化は…?の問いに、「段取りもわからず、とにかく集められるだけ人を集めて…」「場所がないので近くの公園で実験して、ここ(公園の写真を指して)にMIKIKOさんを呼んできて、見せる…(笑)」と当時の様子が伺えるお二人のやりとりに観客も思わず笑み。試行錯誤しながら演出に挑んでいた事を明かしていました。 「会場のスケールが図面上はわかっていても、身体感覚として無かった」と振り返る石橋さん。当時は今までやったインスタレーションとサイズ感が違うことに、戸惑いを隠せなかったようです。

    そして、2013年に開催され、国外でも話題になった「カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル」の話へ。Perfumeのダンス・衣装に合わせてプロジェクションマッピング技法を用いたパフォーマンスについて。

    演出振付家のMIKIKOさんからもらった演出アイデアを実現するために、YCAM(山口情報芸術センター)での滞在制作でブラッシュアップを行ったライゾマチーム。「ファンとクリエイターでグラフィックを創りプロジェクションマッピングする」「衣裳を動かす」という難易度の高い技術にトライします。

    ドレスメーカーさんとひとつひとつ検証していったPerfumeの衣裳はまるで折り紙のような美しさ。「ショーのモデルが着るものとダンスするパフォーマーが着るものはまた違うから、シビアに制作した」と石橋さん。大きなステージで難しい課題をクリアしていくプロセスに観客席も聞き入っていました。


    続いてライゾマの最新のお仕事を紹介。センサーとドローン(小型無人航空機)を使ったダンスインスタレーション「モザイク」の演出を紹介してくれました。

    滑らかにダンサーの上を浮遊する様は、ピラミッド型のUFOのようです。ドローンは「四角錐がついてない状態」からスタートしましたが、作品のコンセプトと結びつけるために四角錐をつけたいというオーダーが入り、取り付けることに。真鍋さん曰く、「結果、不安定になったけどそれが面白くなった」。ドローンは制作途中、コンピュータ制御のプログラムでは、きっちり揃った機械的な動きとなってしまうため、ドローンの動きをレコーディングするシステムを開発。ドローンを持ってダンサーが動いた軌跡を使うことで、有機的な動きの表現を可能にしたそうです。

    真鍋さんはメディアアートならではの醍醐味をこう語ります。「ダンサーと映像のインタラクションは、やりつくされている。ARやVRだけではなく、ダンサーと実世界でリアルにインタラクションするオブジェクトを使う仕組みを考えていきたい。ドローンを使ったのも、その考えがベースにある」。また「新しい技術を用いたアイデアを演出振付家に見せ、ディスカッションして即興でダンスをつくってもらう。この瞬発力が受け入れられているのは、恵まれているなと思うし、技術デモを表現に昇華してくれるMIKIKOさんの力に常に助けられている。普通の演出家・振付家だと技術に引っ張られてしまうことが多いのだけど、技術を使う理由をきちんと紹介してくれる。」と自身の環境についても振り返りました。


    こうしてライゾマティクスの仕事をみて感じるのは、圧倒的な完成度やボリューム感、そして新しい仕組みづくり。にも関わらず、それを実現させるタイミングはとてもスピーディです。

    スケジュールが短いほど、実現性を重視して「今回はここまで」と、はじめから出来る範囲でのゴール設定をしてしまいがちです。そうなると仕事の仕方は合理的になっていきますがクリエイティビティに影響がでるという懸念も 。ライゾマのお二人はどうやって仕事を進めているのか、司会が質問を投げかけます。

    「仕事によってはリハーサルの時間が限られていたり、制約があるなかで効率のいい方法をとる場合もある。そのなかでどれだけ面白いことを出来るか。逆に長期でスタジオを借りて、テスト繰り返すような作業は効率としてはどうしても悪くなってしまう。両方あると思う」と真鍋さん。

    「色々チャレンジするためには、一個一個の結果が短時間でわかれば、その他のケースも多く試すことができる。試したいときに最短の時間でテストするようにしている」と石橋さん。沢山のプロセスを踏むことは必要ですが、自分の過去のデータや経験を生かして、どのように創り、何を使えばいいかを取捨選択しながら効率をあげていく。そんな現場の様子が伺えます。


    次に、ラボでの取り組みについて話が移ります。

    その前に、タイトルにもなり、トークのキーワードにもなっている「ラボ(ラボラトリー)」について。真鍋大度氏と石橋素氏率いる「ライゾマティクス」は、2008年に研究・創作スペース「4nchor5 la6(アンカーズラボ)」を開設。「チームでも個人でも戦えるアンカー達がひっそりと集い、何かを生み出し続けるための場所」として少数精鋭のクリエイターが集まる場所を作りました。これが今回の「ラボ」を指しています。今までのプロジェクトも、ラボでの研究開発やチームづくりがもとになって作られたものばかり。

    アイデアを思いついたときに、どのようにラボを活用しているのでしょう。「ラボではまず小さなプロトタイプを作り、実験し、大きなスタジオを借りてスケールアップさせていく」と、真鍋さん。では、スケールアップさせる段階で、様々な問題が生じたとき、メンバーでどうジャッジしていくのか、の質問に「去年はそういったジャッジが必要でこの環境では出来ないと判断し、諦めなければいけないこともあった。もっと理想的な環境では出来るけど、この場所ではできないとかね。時間をかけているのでもったいないけれど、出さない勇気も大事だと思っている。」と語りました。

    実験していく中で、アイデアの引出しは今どれくらいあるんでしょう?と司会に尋ねられると「(アイデアは)17個」とコメント。テスト検証をしたり、誰でも使えるようなツールを使い、汎用性を上げていろんな場面でも対応できるような形にまで仕上げていく。そういう姿勢だからこそ、この数字なのでしょうか。

    また、最近注目している技術は?の問いに、「(調査資料を見せながら)生体データと機械学習、ディープラーニングなどを用いた人工知能ネタに、最近興味あります」と説明する真鍋さん。NEVERまとめでもアップされているように、真鍋さんは研究論文や美術史など様々な調査(サーベイ)資料をもとに制作しています。機械学習についても専門家の方にインタビューして調べたり、学生の力を借りて資料を作成しているそう。


    創造都市であるここ札幌。もしも、この札幌にライゾマティクスを移動させるとしたら…?という質問に、「滞在制作できる場所はあるんですか?」とお二人とも興味をのぞかせます。東京にいるメリットについて質問が及ぶと「だんだんなくなってきている。最近では、筑波の宿泊施設のあるスタジオを使っていますから」と真鍋さん。今後、札幌に使いたい施設が出来れば、ライゾマティクスをはじめとする多くのメディアアーティストが札幌に集まるかもしれません。

    札幌という場所で制作するなら、どんなことをしたいか?には、「モエレ沼公園の草原でなにかやりたい」「自然とメディアアートでなにかしたいですね」とお二人。「札幌は、まだラボという概念は馴染みが薄い。研究・実験・開発・発表していく施設が必要ではないかと思っています。いつかライゾマティクスにも札幌に滞在制作に来て欲しい」と司会の小町谷さんも今後の札幌について語ります。

    司会の小町谷さん、石田さんが大学教員ということもあり、学生の観覧も多かった今回のイベント。最近では、メディアアートのジャンルを志す人が増えているそう。トークショーの最後に、学生へ向けてのメッセージを聞かれ、真鍋さんは、手を動かしてつくることの大切さと心構えについて語ってくださいました。

    『日本メディアアート史』(馬定延[マ・ジョンヨン] 著)という本があるのですが、読んでみると30年前のメディアアート史を語っている内容が、今とほとんど変わらない。これより新しいことをそんなにすぐは考えられないだろうなと思うんですが(笑)。時代が追いついたといったら偉そうですけど、今はメディアアートにとって、とても良い時代になってきた。ここにいる学生さんも学校で新しいアイデアや作品をつくって発表する機会があると思うんだけど、手を動かすより悩む時間のほうが多くなってしまうということには、ならずにいてほしい。僕はIAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)にいたとき、プレゼンの度にへこんでいた。今思えば、気にせずにガンガンやればよかったな、と。Twitterで、意思表明しているやつを見かけると『それはいいから!とりあえず作ろうよ』と思う。(クリエイターは)作品でしか評価されないんだから。」

    自身が悩みながらも、「まずは作ってみる」ことを続けたことで道が開けた経験があるからこそ。このコメントに大いに刺激を受けた学生さんも多かったのではないでしょうか。今後ますます目が離せないライゾマティクス。全体を通して、ラボという概念の重要性を参加者が共有できる充実したトークでした。


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    ゲストプロフィール

    真鍋大度/Daito MANABE
    プログラマ/アーティスト

    1976年生まれ。東京理科大学理学部数学科卒業、国際情報科学芸術アカデミー (IAMAS) DSPコース卒業。2006年にウェブからインタラクティブデザインまで幅広いメディアをカバーするデザインファーム「rhizomatiks」を立ち上げ、2008年には、石橋素とハッカーズスペース「4nchor5 La6」(アンカーズラボ) を設立。

    ジャンルやフィールドを問わずプログラミングを駆使して様々なプロジェクトに参加。ars electronica、eyeo festival、resonate、OFFF、FITC、Transmediale、EXIT、Scopitone Festivalを始めとした海外のフェスティバルにアーティスト、スピーカーとして参加。Prix Ars Electronicaでは2009年度審査員を務め、2011年度インタラクティブ部門準グランプリ受賞、2013年度インタラクティブ部門栄誉賞受賞。文化庁メディア芸術祭においては大賞2回、優秀賞2回、審査委員会推薦作品選定は8回を数える。

    2010年よりPerfumeの演出サポートを担い、ディレクションを担当したPerfume Global Site Projectはカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル、サイバー部門にて銀賞を受賞。データ解析とインスタレーションを担当した「Sound of Honda/ Ayrton Senna1989」が2014年カンヌライオンズでチタニウム&インテグレーテッド部門にてグランプリを受賞、8部門でゴールド6つ、シルバー6つを含む15の賞を受賞、2014年D&AD賞で最高賞であるブラックペンシルを受賞。米Apple社のMac誕生30周年スペシャルサイトにてジョン前田、ハンズ・ジマーを含む11人のキーパーソンの内の一人に選出されるなど国際的な評価も高い。

     

    石橋素/Motoi ISHIBASHI
    エンジニア/アーティスト

    1975年生まれ。東京工業大学制御システム工学科、国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。4nchor5 la6を真鍋大度と共同主宰。ハードウェア制作を主軸に、様々なプロジェクトに参加している。デバイス制作を主軸に、数多くの広告プロジェクトやアート作品制作、ワークショップ、ミュージックビデオ制作など、精力的に活動行う。

    工業用刺繍ミシンを使った『Pa++ern』や産業用ロボットアームを使った『proportion』など、ロボットを取り入れた作品。『Lenovo』『ラフォーレグランバザール』TVCMへの作品提供。やくしまるえつこMV『ルル』『ノルニル』『少年よ我に帰れ』に参加。『perfume 3rd tour -JPN-』武道館追加公演にてLED衣装制作。多数の作品がメディア芸術祭審査委員会推薦作品に選定。2011年 第15回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。2011年 Prix Ars Electronica インタラクティブ部門準グランプリ受賞
     

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    ラボから生まれるアート -ライゾマティクス-

    日時:1月20日(火)19:00~21:00(開場は18:30になります。)
    場所:MIRAI.ST cafe
    北海道札幌市中央区南3条西5丁目1-1 ノルベサ1F
    入場料:無料(キャッシュオンスタイル)
    主催:札幌大谷大学,札幌市立大学
    協力:MIRAI.ST cafe

    ゲストスピーカ:真鍋大度+石橋素(ライゾマティクス)

    司会:小町谷 圭(札幌大谷大学 美術学部)
    石田 勝也(札幌市立大学 デザイン学部)

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    レポート:小島歌織
    撮影:大場優子

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